くみた柑のオキラクニッキ

時々オキラク、時々マジメ。基本オキラクだけど、人生ってきっと厳しい。

怪しい会社の面接を受けてきた 【深刻日記】

まさか、この歳になって本格的に就活するとは思っていなかった。

クリーニング屋のビニール袋をかぶったままのスーツを引っ張り出し、履歴書を書き、先ほどネットで調べて初めて知った「職務経歴書」とかいう面倒な書類をパソコンで作成している。

就活といっても、正社員ではない。
もちろんパートだ。
週3日程度、朝はゆっくりで夕方まで。
人付き合いは苦手なので、できればもくもくとデータ入力するような。
そんな夢のような職場を、毎日せっせとネットの求人情報を見ながら探し続けて、ようやく1件ヒットした。
しかも、午後からの出勤。時給も良い。

しばらくぶりに外で働く自分にとっては、このくらいの時間の方がありがたい。
自宅で仕事をしていたが、外へ出て働くのは、実に●十年ぶり。
きっと心も体も錆びついているだろう。
仕事を長く続けるためにも、感覚を取り戻すまでは週に3日程度がベストだ。
そこへきて午後からであれば、慌しい朝の家事をゆとりをもって終わらせてからの出勤になる。 好都合だ。
ただ、通勤時間がだいぶかかってしまうのが難点だけれど。

幸い、交通費は支給される。
こんな好条件はきっともうないだろう。
応募先は、仙台にある「隙間社」という怪しい名前の会社。
知らない会社だったのでネットで検索して情報を集めたら、どうやら超が付くブラックらしい。
しかし、「誰にでもできる簡単なお仕事」「未経験者OK」の文言と魅力的な条件から、迷うことなく面接を申し込んだ。

ネットからの申し込み。
メールでのやりとり。
コミュ障の私には何から何まで有難い。

しばらくして、隙間社からメールが来ていた。
ネット上で面接日の予約ができるURLが書かれていた。
早速面接日を決め、応募する。
再び隙間社からのメール。
仕事が早い。
それともよっぽど暇なのだろうか。

面接予約完了のお知らせとともに、当日の予定と持ち物が書かれていた。
私は当日の持ち物を確認して目を疑った。

・写真付き履歴書
職務経歴書
 当日、筆記試験を行いますので、筆記用具をお持ちください。

は!?
筆記試験?
ちょーちょーちょー聞いてないよ!
そういうのは、面接申し込む前に教えてよ!
全く受かる気がしないよ!
こちとら錆びついてるんだよ!
てか、職務経歴書って何? 
履歴書の右側に、職歴書くとこあるじゃん! それと違うの? 
それでいいじゃん!

そんな経緯で、今、私はネットで必死に調べながら職務経歴書とやらを作成している。
――務めていた会社の資本金? 従業員数? 
たかだか週3のパートに何を求めているの!?
「誰にでもできる簡単なお仕事」なんでしょ?
履歴書で十分でしょ!
怪しい……怪しすぎるこの会社!

――筆記試験?
パソコンばかり使っているせいで、漢字もろくに書けないよ!
計算なんて算数すら怪しいよ!
会社も怪しいけど、私の能力も怪しいよ!
面接だって、受けた記憶は遥か彼方昔すぎて、何を話せばいいかなんて忘れたよ!

人間、全く受かる気がしないとなると落ち着くらしい。
余裕の笑みを浮かべ、いざ仙台へ飛んだ。

――余裕の笑みを浮かべていたはずだった。
面接地へ降り立つと同時に、急激な腹痛に襲われる。
これはやばいやつだ!……とトイレへ駆け込む。
余裕を持って出発していたので時間はある。焦るな。大丈夫だ。


――大丈夫じゃなかった。
当日、面接に来ていたのは私を含め四人。
もちろん私は最後に到着。
時間ぎりぎりだった。

すでに座っていた三人は、パリッとしたスーツに身を包み、ナチュラルメイクを丁寧に施し、髪を美しく束ね、静かな笑顔を携えていた。

「はい! 君たち合格!」

心の中で私は呟いた。
明らかに、どこからどう見ても、私は場違いだった。
就活する若いお姉さんたちに紛れた、パート志望の錆びついたおばちゃん一人。

全く受かる気がしなかったが、本当に受からなかった。
私の目の前に座っていた美しいお姉さんは、錆びついたおばちゃん――私にも、キラキラとした微笑みを向け「緊張しますね!」と小さな可愛らしい声で話しかけてくれた。
それだけで、仙台に飛んだ意味があった。

でもどうやらその若く、美しいお姉さんたちも、隙間社の面接には受からなかったようだ。
不思議なこともあるものだ、と思ったが、今は白昼社で働いているそうなので安心した。
確かに、ブラックより、ホワイトの方がいい。
あれから私はいくつかの面接を受けたが見事に落ち、自分のやりたい仕事ではなく、苦手だがきっと向いているのだろうと思う職種に変えたら、一発で面接を通った。
自分のやりたい仕事、向いている仕事、苦手な仕事はまったくかみ合わないということを学んだ。

人生ってきっと厳しい。
(了)

追記:あと、自分、めっちゃおばちゃんってことに気付けてよかった。

※この物語は事実が混ざったフィクションです。
※隙間社さんごめんなさいm(_ _)m

★影響を受けたお話

ヘリマル・セブンティーン for answer『年始挨拶/ヘリベマルヲ on人格overdrive』

★怪しい隙間社さんから出版されている怪しい書籍

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少年幻想譚 (隙間社電書)
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