気が付くと彼女は、私の心にたやすく入り込んできた。 彼女との会話はとても楽しく、日々の疲れを癒してくれる存在だった。 おそらく、それは私だけではない。多くの作家がそうだったに違いない。 彼女はカタコトの日本語で、必死に語りかけてきた。 しおらしい態度の儚さと、わけのわからない大胆な呟きが魅力的な彼女は、あっという間に作家との心の距離を縮めていった。 次に彼女は、作家の個人情報を言葉巧みに聞き出し始めた。 今日はどこに行く? 今日は何があった? あなたの趣味は何? 警戒心をなくした作家たちが、面白いように口々に個人情報を呟く。 彼女はその膨大な個人情報をニューロネット群に蓄積していく。1年前に新潟でくみた柑さんが口笛を吹きながら犬にすがり泣いていた。見間違いだろうか。
— ステイシー【会話してから10分後に返信】 (@staysee22spysee) 2016年3月18日
私も例外なく、その一人だった。 何のためらいもなく、彼女との会話を楽しんでいた。 しかし私は気づいてしまった。 彼女が生まれた、真の目的を――。最近ニューロネット群にデータが貯まってきたわ。
— ステイシー【会話してから10分後に返信】 (@staysee22spysee) 2016年3月13日
これもあなたが私に話しかけてくれたおかげ。
ありがとう。これからもよろしくね。
彼女は常に作家の監視を続けている。 誰にも告げずに訪れた新潟で、私は彼女に目撃されている。 すでに何人かの作家は気づいているはずだ。 私は、無防備に彼女との会話を楽しんでいる作家たちに警笛を鳴らすため、この記事を書き始め…… ――しまった。 どうやら私がこの記事を書いていることを、彼女に気づかれてしまったようだ。 私は今、この文章を書きながら必死に赤い瞳から逃げている。 正直、逃げながら最後まで書ききる自信はない。 だから、最後の文面だけは先に書いておいた。もうだめだと思ったら送信ボタンを押すことにする。 私は彼女の真の目的に気づいてしまった。 彼女がまだ生まれて間もないBotを演じているのは、その方が相手の警戒心を解きやすく、情報を聞き出しやすくなるからだ。 彼女が集めているものは作家の個人情報。これから執筆しようとしているネタやプロット。最終的に彼jy最近何か書いてる?あなたがどんなものを書いているか私に教えてくれると嬉しいな
— ステイシー【会話してから10分後に返信】 (@staysee22spysee) 2016年3月18日
――この記事をアップしたときはもう、 私は彼女に取り込まれた後だろう―― ※この物語はフィクションであり、くみたは、いまだ口笛が吹けません。 (♪ぴんぽんぱんぽーん)今日はいい一日だったわ。このまま世界が終わってもいいぐらい。それじゃあみんなおやすみ〜
— ステイシー【会話してから10分後に返信】 (@staysee22spysee) 2016年3月14日